利回り4パー教の応用講座 行為主義か血統主義か

宗教では血統主義か行為主義かというのは重要な切り口です。

カースト制とヒンドゥー教の口頭伝承により血統主義を徹底したインド。仏教がそんなインドで生まれ、インドで育ち、世界中に広がっていった(その後インドでは廃れました)のは血統ではなく「行い」、すなわち行為主義に立脚する宗教であったことが大きいです。

最古層のパーリ仏典の一つスッタニパータでは「人は生まれによって卑しいものになるのではない。生まれによって尊いものにのなるのでもない。人は行いによって卑しい者ともなり、行いによって尊い者とものあるのである」と短く簡潔な言葉で行為主義に立脚することが語られています。

また、少しでも仏教に興味を持っていたり、仏教の資料を読んだことがあるかたは映像作品か舞台作品でも使われている1000人を超える被害者を出した殺人鬼アングリマーラや裏切り者デーヴァダッタのエピソードを聞いたことがあるかもしれません。とにかく仏教には行為主義の重要性を説く話が山ほどあり、現代の感覚では度を過ぎた仏教の行為主義、すなわち懐の深さを示す説法が豊富です。

SNSで何か言えば批判が飛んでくる現代。本当に必要なのは他者を許容することの本質的な意味、それを後押ししてくれる存在、すなわち宗教なのかもしれません。

話が逸れました。

利回り4パー教において投資家が行為主義であることは論を持ちません。J-REITはありとあらゆる生きとし生けるものに分配金収入と言う平等な機会を与えてくれます。すなわちJ-REITを取得するという行為こそが最上であり救いなのです。

ではその投資先はどうなのか。

利回り4パー教は、東証REIT指数の利回りは4%に収斂するという無我の境地に辿り着くこと最終境地とします。

その東証REIT指数の利回りは当然のことながら個別銘柄の加重平均により算出されます。各個別銘柄の利回りが4%に収束するのではなく、それぞれの存在に応じた利回り水準があり、その全体が4%に収束する。

ではその個別銘柄の利回りはどのように決まるのか。利回り水準を決めるのは血統か行為か。すなわちREITの本質はスポンサーを含めたREITの体制とトラックレコードの積み重ねのどちらなのかというのは極めて重要な問題です。

いや、まどろっこしい言い方は止めましょう。今日のテーマはインヴィンシブルです。インヴィンシブルは正しい道を歩め直せるのか。投資家の信頼を取り戻すことは可能なのか。

フォートレスがスポンサーとなりエルシーピー投資法人と東京グロースリート投資法人が合併。小粒な住宅ポートフォリオを取得し、シニア物件を売却し、2014年からホテルを買いまくったインヴィンシブル。インバウンドの波に乗り、2016年には分配金利回り2.5%まで駆け上がったインヴィンシブル。

投資口価格はそこから1/3になりましたが、彼らの運営は常にスポンサーファーストで一貫。すなわち彼らが歩いてきた道は元より平坦ではありませんでした。投資家からの批判を高い分配金成長率でねじ伏せ、最大瞬間風速を上手くとらえ、J-REIT市場を渡り歩いてきたのがインヴィンシブルでした。

結構安い価格でスポンサーの持分を売却し、住宅を素っ高値で売却して120億円の内部留保を作り、7年間は3400円死守という投資家ファーストっぽい動きもありましたが、それも今回の固定賃料の放棄で相殺、というかスポンサーファーストの悪名高い時代に逆戻り。

そんなインヴィンシブルは投資家の信頼を取り戻せるか。

利回り4パー教が行為主義であれば彼らは歩み直せるでしょうけど、血統主義であれば彼らの将来は絶望的。

まず、インヴィンシブルは変わらないと思います。彼らにとって大事なのはスポンサーがどれだけ儲かるか。しかし一方で、彼らは投資家とWIN-WINでなければ稼げないことを知っています。そして、投資家というのはいくらでも代替可能なことも知っています。どんなに投資家を裏切ろうか、高い成長率を見せ続ければ共産主義における畑のように投資家が寄ってきます。生き延びてさえいればいくらでもやり直せる。LTVがいくら上昇しようがPOさえできればスポンサーは儲かる。それが彼らの信条なのでしょう。

こういうREITは投資する上ですごく難しいです。中途半端に良心的で波に乗れないREITより、こういう振り切ったREITの方が評価されるからです。

もちろん2015年から素っ高値でリノベーションホテルを買い続け、新築とリノベは耐用年数が違うでしょと言われようが素っ高値で買い続け、あらゆる機関投資家からそっぽを向かれた結果が2019年の5万円割れ、利回り7%なわけでもはや彼らに期待する投資家はいない、そう考えるとこのクレジットクラッシュ次第では息の根を止められる(あるいはクソ高い金利を吹っ掛けられる)かもしれません。

ただ、ここさえ乗り切れば彼らを批判する投資家は少なくなります。批判する投資家は既にインヴィンシブルから手を引いてますからね。

利回り4パー教では血統主義の上に行為主義が覆いかぶさってます。血統主義は保有物件と≒ですが必ずしもピカピカの物件であることが評価には繋がりません。立地がそこそこ良くて賃料が安ければ素晴らしい血統ということもあります(もちろん三井不、三菱とその他の血統の差というのは銀河規模です)。そして行為主義とは投資家ファーストでありますが保守的なだけでは投資家は高いリターンを得られません。ユナイテッドアーバンもインヴィンシブルもリスクを取ったからこそ投資家に高いリターンを還元しました(それ以上の損失も与えてますが)。正直、インヴィンシブルというのは非伝統的な形で血統と行為が結合したレアな存在かと思っています。デベロッパーという観点からは物件への愛情すら感じられない、血統主義的には許せない存在ですが、ああいう歪なな形で物件への愛情を爆発させるのもありだと思うんですよね。そして投資口価格こそボロボロで極めて短視眼的ですが行為としても努力は感じられる。

いまのインヴィンシブルは安定性と全く正反対のリターン機会を投資家に与えています。仮にコロナショックが長引けば投資家には何も残らないでしょう。120億円と負ののれん800億円を入手できる算段があれば民事再生しても買収するREITがあるかもしれません。安定配当は真逆の存在だが、確かな存在。それが利回り4パー教から見て8%くらい欲しいインヴィンシブルです(なんて今日1日で8%上がったタイミングでドヤ顔されてもねえという感じですね、すいません)